カンボジア2004年3月末現在の事故分析

2015/3/16

カンボジアにおける地雷・不発弾の事故状況(2004年3月末現在)

 
カンボジアで発生している地雷・不発弾による事故被災者の状況は年々変化しつつあります。近年における顕著な傾向としては、地雷による被災者数が減少し、不発弾による被災者の割合が半数を占めるようになってきました。この
2004年においては、すでに統計の出されている1月から3月の3ヶ月間の事故状況を見ますと、不発弾による被災者数が60%を越えました。(グラフA)   

グラフ(A)ただし2004年は1月から3月までの3ヶ月のデータ。 
注:UXO(Unexploded ordnance)=不発弾、MINE=地雷

 カンボジアは「地雷の国」というイメージは日本の国内でも広く浸透した見識であると言えます。地雷による事故が原因である被災者は、カンボジアの政府機関CMACをはじめその他の機関の活動の成果により年々減少の傾向にあります。しかしながら、不発弾に関してはこの5年間、ほぼ横ばいで、減少の傾向が見られません。
 そのため、昨今のカンボジアの実情では年間約800名の全被災者のうちの半数もしくは半数以上が「不発弾による事故」が原因となっています。

 不発弾はその場にあるだけでは基本的には事故になりません。航空機から投下され、あるいは火砲から発射された後爆発せず不発となった爆弾や砲弾は、振動・衝撃・温度・圧力などのいくつかの条件がそろうと爆発する仕掛けが未だに生きています。この条件は各爆弾・砲弾により違います。対人地雷のように人間が踏んだり、もしくは少し動かしただけで直ぐに爆発することはありません。では、なぜ不発弾が爆発し事故になってしまうのでしょうか?  この状況の背景には様々な要因が考えられます。大きく分けると以下の3点になります。

 
1)貧困との関係
 ●簡易金属探知機を使用した金属くず回収による事故

 カンボジアの季節は雨季と乾季に別れています。乾季に稲刈りが済むと雨季の田植えの季節まで農閑期で仕事がなくなる農民がいます。そういう農民の中には農閑期の現金収入を求めて田んぼや空き地で金属回収を行う人がいます。

 鉄くずや銅・アルミニウムなどを集めて廃品回収業者に持って行くといくらかの収入になるからです。土中に金属があるとそれに反応し音が鳴る簡易金属探知機は、80,000リエル(約20㌦)で購入できます。土中からは釘やその他の鉄くずが発見されたり、不発弾が発見されたりします。不発弾の場合には解体して火薬を抜いて金属部分を売ります。火薬は川で魚を取る時に使うことができます(水中で火薬を使用して小さな爆発を起こし、その衝撃で魚が水面に浮いて来たところを捕る)。この不発弾を解体する際に、事故が発生しています。不発弾が発見された時には、私達に回収の連絡をする農民もいます。  

グラフ(Bカンボジアの乾季は12月から4月。毎年3月は被災者がもっとも多い。

      昨今はカンボジア国内の経済状況にも変化が見られ、都市部の発展に伴って都市周辺部の過疎化や伝統農業の衰退が進んでいます。そういった状況から現金収入を得るために金属回収を行うという状況が生まれています。

 たとえばカンダール州では伝統の砂糖椰子の生産が廃れつつあり(煮詰める薪が不足したり、商品の低価格化が理由)それに代わる現金収入の方法として金属回収が行われています。簡易金属探知機は容易に作ることができ、この探知機を作成して商売している者もいるとのことです。さらに、カンダール州では一部のお金持ちによる土地の買取りが進み、その土地の安全化のために失業中の貧しい村民を雇って簡易金属探知機で個人の所有地内の不発弾を捜索し、回収するということも行われています。

 

2) 被災者の年齢と不発弾に関する認識の低さとの関係
 カンボジアにおける地雷・不発弾の事故被災者のうち、18歳以下の子供が約3.5割です。そのうちの約8割が地雷ではなく不発弾の事故が原因になっています。 カンボジアの人口構成は1975年から1979年のポル・ポト時代の虐殺の影響を受け、大きく歪んでいます。当時は成人であった人民が多く殺されたことや、ポル・ポト時代が終わり内戦が終結に向かいはじめてから、出生率が高くなっため現在では人口の約半数近くが20歳以下であるとされています。

 

 田舎の子供たちは日頃田んぼの中で遊んだり、水牛に乗って移動したりしていますので、日々多くの不発弾に遭遇しています。中にはそれが不発弾と知らずにいじって事故を起こすこともありますし、それが危険な不発弾と知っていながら興味半分でいじってしまい事故を起こすこともあります。  
 現在の18歳以下の子供は1980年代後半以降に生まれた世代です。タイ・カンボジア国境での内戦はまだ完全終結していませんでしたが、戦時中に爆弾が投下されたり発砲されたりしてその威力を目の当たりにしてきた世代とはまた少し不発弾に対する認識が異なっているようです。たとえば、「危険と知りながらボール爆弾を投げて遊ぶ」ということは、やはり「危険に対する本当の怖さ」を知らないと言えます。また各家庭や学校・地域での啓蒙教育が浸透していないものと予想されます。村で危険な不発弾を解体する大人を目にして、「不発弾はそんなに危なくない」と考え、子供が真似をすることも考えられます。

 

3)地域の開発との関係
 カンボジアの地方のインフラも整われつつあります。ベトナムに向かう国道1号線もプノンペンからネアック・ルーンまで道路の幅を広げる予定があり、現在カンボジアの陸軍工兵隊が両道路脇の地雷・不発弾探査を実施しています。プレイヴェーン州でも道路幅を拡大し雨季の浸水に備えて道路を少し高く上げる工事が昨年実施されました。その際には道路の両脇から不発弾が発見され、また盛り土をするための土砂採集場からもたくさんの不発弾が発見され回収されました。

 農作地を拡大したり、工場を建設したり、小学校を建設したりするなかでこれからもたくさんの不発弾が発見されることが予想されます。こういった土地で、前述した金属回収者や子供による事故の増加が懸念されます。また不発弾では割合的には少ないですが、こういった土地での偶発的な事故の発生も原因のひとつです。

2004年5月17日JMAS作成。資料:被災者統計はCMVISのデータによるもの。